バウンダリーを大切にし、生活を支えるカウンセリングルーム

2025年6月31日

精神疾患の特性と回復プロセス

双極性障害(特にⅡ型)や複雑性PTSDといった精神疾患は、症状の現れ方が一定ではなく、エネルギーの高低差が大きな波となって繰り返し訪れることになります。双極Ⅰ型が脳の機質的変化を伴いやすく、長期入院や薬物による症状改善が比較的期待できるのに対し、双極Ⅱ型は症状が比較的穏やかで目立たない反面、薬物での根治が難しく、症状コントロールと生活調整の両面からのアプローチが必要となります。

Ⅱ型では、活力が過剰に高まる「軽躁」状態と、活動が著しく落ち込む「抑うつ」状態が交互に現れます。これらの変動はバイオリズム的な要因に加えて、対人関係や生活環境のストレスによっても影響を受けやすいのです。本人が好調時に活動量を上げすぎるとエネルギーを使い切って急激に落ち込み、逆に低調時に過剰に休みすぎても回復が遅れるため、波の振れ幅を抑える工夫が必要です。

このため治療方針の中心には「リソース管理(エネルギー管理)」という考え方が置かれます。心身のエネルギーを「家計」とするなら、休養・睡眠・栄養摂取が収で、ストレス・疲労・過剰活動が支出です。収入を増やし支出を減らすことで、長期的に安定した状態を目指すことができます。活動量は段階的に増やし、短期間での急上昇や急降下を避けることが推奨されます。

人間関係と環境調整

精神状態の安定には、人間関係と生活環境の調整が大きく影響します。特に、長年にわたり自己評価や行動パターンに影響を及ぼしてきた家族関係は、症状の再燃を促す要因となることがあります。幼少期からの関係性の中で、自己を後回しにする行動や、周囲に合わせることを優先する傾向が固定化している場合、本人は無意識のうちに自分に不利な選択をしやすくなるのです。

こうした背景を持つ場合、環境調整は回復の重要な一環となります。具体的には、負担を与える関係とは一定の距離を取り、第三者を介して必要最低限のやり取りを行う、接触は公共の場で短時間に留めるなどの方法が有効です。また、家族や関係者からの直接的な干渉を防ぐため、外部の支援者(カウンセラーやパートナー)が窓口となることも推奨されます。

一方で、安心できる人間関係や協力的な職場環境は、症状安定の助けとなります。復職先を検討する際には、仕事内容だけでなく、人間関係の質や過去の経験から得られる安心感が重視しても良いかもしれません。すでに信頼関係のある職場に戻ることは、適応負荷を大幅に軽減できますが、それでも十分な回復期間を確保せずに復帰することはリスクが高くなります。

将来の見通しと意思決定の難しさ

回復期における将来計画、とりわけ職場復帰や転職の判断は、精神的エネルギーを大きく消耗させます。将来の不確実性と日々の体調変動が相まって、意思決定は容易ではありません。特に、復職に関する話題や提案が浮上すると、期待と不安が交錯し、短期間で感情が大きく揺れることがあります。

こうした消耗を避けるための一つのアイデアが、「考えない期間」を設ける方法です。あらかじめ一定期間は判断を先送りし、その間は体調回復に専念するのです。この方法は、決断疲れを防ぎ、エネルギーを重要な行動に集中させる効果があります。

意思決定の際には、短期的利益(早期復職による収入確保)と長期的安定(十分な回復を経てからの復職)のバランスが問題です。特に、職場の人事や経営状況の変化、関係者の異動といった自分ではコントロールできない要因も絡むため、焦って結論を出すことは避けるべきです。社会保障制度の活用(傷病手当金、失業手当など)によって経済的基盤を確保し、余裕を持って判断することが望ましいです。

トラウマと記憶・感情反応

複雑性PTSDや過去の心理的外傷は、現在の思考や感情、行動に深く影響します。自己評価の低さ、過剰な自己抑制、危険を回避するための極端な行動選択などは、長期的に形成された適応パターンです。これらは本人の意思や性格というよりも、過去の環境で生き延びるために必要だった反応の名残であることが多いです。

強いトラウマ経験を持つ人は、日常生活の中で常にサバイバルモードに入りやすく、状況を「最悪の事態」から逆算して考える傾向があります。そのため、客観的に有利な選択肢があっても、それを避けてしまうことがあるのです。また、トラウマ記憶は夢や身体症状として表面化し、悪夢、発汗、覚醒時の倦怠感などを引き起こすことになります。

さらに、強いストレス下では記憶の一部が断片化したり欠落したりすることがあります。これは心理的防衛として機能する一方、本人にとっては「記憶が抜け落ちた」という感覚自体が新たな不安や混乱の原因となります。トラウマ治療はこうした反応を緩和する可能性があるが、多くのエネルギーを必要とするため、心身が安定してから段階的に実施することが望ましいものとなります。