トラウマ、PTSD、パーソナリティ症
xでトラウマ、PTSD、パーソナリティ症の関連についての議論が活発になっているようである。とても良い。しかし、この三者の関係についてはいろんな見方があり、しばしば混乱してこれらの用語が用いられているようである。
まあバイオマーカーが全くないことに加え、様々な歴史的経緯もあるので、コンセンサスの取れる客観的定義というのは、これらの用語はきっとできないことなのだと思う。その分、それぞれの筆者がどのようにその用語を使っているかを正確に踏まえることが大切なのだろう。
ところでJanetの見方からするとどう捉えることができるのだろうか。
PTSDの中心的な病理をフラッシュバックであると考えるのであれば、DSMに記載されているように、フラッシュバックとは記憶の解離であるという見方が重要になる。ナイエンヒュイスはPTSDと解離性障害を別カテゴリーにすることに疑問を呈しているが、それはJanetが見たように、統合不全(すなわち解離)した記憶の存在としてフラッシュバックを捉えていたからである。統合不全の<つまり解離した>記憶にならない記憶であるトラウマ記憶が存在するために、フラッシュバックが生じるのである。その場合、現代的な治療においてはPTSDと診断してトラウマ記憶の統合を目指すことが優先されることになる。
ところでJanetは、ある出来事がトラウマ記憶となる条件として、その出来事そのものが激越な情動を引き起こしている場合だけでなく、もともとの脆弱性(Janetの用語でいうところの弱力性)が存在している可能性について触れている。この脆弱性については、遺伝的あるいは/または後天的に獲得された、特定のパーソナリティともいうべきものである。ここに注目するのであれば、トラウマ記憶の統合の失敗はそのパーソナリティに由来する弱力性のためであると考えることができる。そうであるなら、先にそちらの治療を優先するという戦略も現実的であろう。
Janetの実践を見ると、どうやらこの両者を組み合わせていたらしく、それは現在においても臨床的であると思う。まあいずれにしても、今以上の定義と実践における方針の明確化が求められることになるということだろう。