バウンダリーを大切にし、生活を支えるカウンセリングルーム

2025年9月27日

やりたいことが出たときに意識したいこと

心身の調子が回復してくると、意欲や関心が一気に高まり、さまざまなことに取り組みたくなる時期があります。趣味を始めたい、勉強したい、生活を整えたいといった気持ちは、回復の兆しであり、とても望ましい変化です。しかし、その一方で「やりたいことが多すぎて落ち着かない」「どれも中途半端に終わってしまう」といった困難も生じやすくなります。

心理学的に見ると、この状態は「エネルギーの高まり」が急激に訪れたときに起こりやすいものです。人は達成感を得ることで自己効力感が高まりますが、同時に「終わらせられない経験」が積み重なると、かえって自信を失ってしまいます。そのため、回復期においては「やりたいことを一つに絞ること」や「小さなゴールを設定して終えること」が特に重要になります。これは認知行動療法における「行動活性化」の一部としても説明でき、活動量のバランスをとりながら「達成感」を積み上げていくことが、安定した回復につながっていきます。

また、身体の回復と心理的な回復は必ずしも同時には進みません。身体が元気になってくると「もう働けるのでは」「もっと頑張らなければ」と思うことがありますが、心理的なエネルギーはまだ十分でないことも多いのです。心理臨床の立場からは、この時期には「休むことを許可する」姿勢が推奨されます。むしろ休養こそが長期的な安定のために不可欠であり、無理な再始動は再発のリスクを高めます。

さらに、回復の過程ではフラッシュバックや不安、緊張といった身体反応が出ることもあります。これはトラウマ記憶やストレス反応が関係している可能性があり、身体的なケアを取り入れることが有効です。たとえば呼吸法やバタフライハグのようなセルフケアは、自律神経の働きを整え、過剰な覚醒を落ち着ける助けとなります。また、記録を残すことで自分の反応のきっかけやパターンを理解しやすくなり、セルフモニタリングの一環として活用できます。

心理学的に考えると、人の中にはさまざまな側面が同居しています。「行動したい自分」と「休みたい自分」、「過去とつながりたい自分」と「離れたい自分」。これらはどれも意味がある自分の一部であり、否定する必要はありません。重要なのは、その時々で最も適切な選択をとりながら、自分の中の複数の側面を調整していくことです。

やりたいことが増えること自体は回復のサインです。ただし、そのエネルギーを上手に使うためには「絞ること」「終えること」「休むこと」の3つを意識することが大切です。こうした工夫によって、回復はより安定的に進んでいくと考えられます。